近年漢方の注目は高まっており、作用機序や効果実績が証明されているものも増えてきました。漢方薬は様々な生薬から構成される多型成分の集合体であり、含まれる生薬の種類によって効果は様々です。基本的には、生薬の種類が少ないほど効果が鋭く短期間で発現し、多いほど効果は緩やかになります。
西洋薬においては、特に「温める」ことと「静脈からの循環障害を改善させる」ことがあまり得意ではありません。また、「むくみ」に対して利尿薬のみで対応しようとすると、体全体の水を減らすことになり、電解質のバランスも崩れることになります。
しかし、整形外科領域ではこの「冷え」から来る症状と「局所の循環障害」「浮腫」が原因となる症状も少なくありません。漢方薬を使うことで、これらの症状に対するアプローチを容易にし、体が本来あるべき姿に持っていくことができます。
以下、各々の症状に対する処方例をお示し致します。
葛根湯(かっこんとう) 風邪薬として有名ですが、後頚部から肩にかけての筋緊張を緩和させる効果があります。血圧上昇させる麻黄(まおう)が含まれているため短期間での内服となります。
桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう) プレガバリンなどの西洋薬が比較的即効性が高いため出番は少ないかもしれませんが、同薬剤の副作用である眠気が強く飲めない場合の頚椎症などで処方されます。手根管症候群が原因のしびれ対しては、神経の浮腫や炎症を抑える柴苓湯(さいれいとう)が有効な場合があります。抗がん剤の副作用が原因である場合は、神経の軸索障害が主体であり、人参養栄湯(にんじんようえいとう)が適応となります。
五苓散(ごれいさん) 上肢の症状に対して有効です。五苓散自体は体内の水分の配置を自動的に調整する働きがあります。後述の様々な症状に対しても用いられます。
柴苓湯(さいれいとう) 腱鞘の炎症や浮腫を改善させます。
冷えがある場合 牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)、冷えがない場合 八味地黄丸(はちみじおうがん)。浮腫みや頻尿の症状も改善させます。ご高齢、虚弱な方は牛車腎気丸がより適応となります。効果発現までは4週程度と時間がかかる場合が多いです。
防己黄耆湯(ぼういおうぎとう) 関節の水腫を改善させます。色白の女性の浮腫みに対しても効果があります。
当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう) 血行を良くして手足を温めます
芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)が第1選択の治療薬ですが、効果がない場合は疎経活血湯(そけいかっけつとう)が第2選択の薬となります。芍薬甘草湯の作用は5分から6時間程度です。明け方に発作が起きる方が多いので、その場合は眠前に内服することが推奨されます。
芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)と葛根湯(かっこんとう)の組み合わせが有効です。いずれも筋緊張の緩和に働きます。甘草の量が多くなるため、短期間での内服となります。
疎経活血湯(そけいかっけつとう) 局所の血行を促進させます。成分は豊富であり、効果発現は緩徐になります。
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん) 微小循環障害を改善させ局所の腫れを抑えます。
越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう) 熱を冷まし腫れを取る効果があります。腎機能が悪くNSAIDSが内服できない偽痛風の方に対しても有用です。
急性炎症に対しては麻杏薏甘湯(まきょうよくかんとう)、慢性炎症に対しては薏苡仁湯(よくいにんとう)が用いられます。足底腱膜炎に対しては薏苡仁湯が有効です。効果発現までやや時間がかかります。
抑肝散(よくかんさん) 一般的な痛み止めであるNSAIDSが効きにくくなっているような長期の痛みは精神的な要因が関与していることが多く、本薬剤が用いられます。
・初期 悪寒があるとき
麻黄湯(まおうとう) 汗が出る前であれば、効果があります。一時的な体温上昇を促し、免疫応答を高め、発汗を促し、解熱させます。インフルエンザの場合でもタミフルと同等の効果があり、2日以内に解熱する効果があります。高齢者など体力が落ちている方は麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)など温める成分を含んだものが良いです。
・中期 汗が出た後
柴胡桂枝湯(さいこけいしとう) 炎症を抑え、胃腸の症状や関節症状を改善します。
・後期 体力低下の改善
補中益気湯(ほちゅうえっきとう) なんとなくだるい、元気が出ないという状態からの改善を促します。より体力の消耗が激しい場合は十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)が適応となります。COVID19感染後の易疲労感に対してもこれらの処方が有効です。
・乾いた咳
滋陰降火湯(じいんこうかとう) 肺にうるおいをもたらし咳を鎮めます。
・湿った咳
竹茹温胆湯(ちくじょうんたんとう) 痰がからむような咳に対して効果があります。
小青竜湯(しょうせいりゅうとう) さらさらとした鼻水、咳、くしゃみなどに対して効果があります。
黄連解毒湯(おうれんげとくとう) 炎症を鎮める作用があります
大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)が基本的な処方ですが、より強い応答を引き出す場合は桃核承気湯(とうかくじょうきとう)などが有効です。うさぎの糞のようなころころの場合は潤腸湯(じゅんちょうとう)が適応となります。
発作時は芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)にて尿管の攣縮時の痛みを抑えます。石の排出を促すのは猪苓湯(ちょれいとう)になります。
耳石が原因となる良性発作性頭位めまい症では五苓散(ごれいさん)を2包内服すると、2時間ほどで効果が出ることが多いです。慢性のめまいに対しては、半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)が用いられますが、効果発現まで時間を要します。
五苓散(ごれいさん) 飲む前に内服する方が効果ありますが、飲酒後も有効です。
いらいらして胸がつかえるような場合、柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)が有効です
半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう) 胃腸炎症状を改善させます。 小児では五苓散(ごれいさん)も使われることがあります。
半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう) 自律神経の乱れからくる不安感、のどから胸にかけてのつかえ感を改善します。
疲れやすく食欲がない場合は呉茱萸湯(ごしゅゆとう)、高血圧に伴う慢性的な頭痛に対しては釣藤散(ちょうとうさん)が適しています。季節の変わり目や雨の日に起きる頭痛に対しては五苓散(ごれいさん)が有効です。
抑肝散(よくかんさん) せん妄などの様々な認知症周辺症状に対しても効果があります。 比較的急性期の症状に対しては甘麦大草湯(かんばくたいそうとう)が有効です。
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん) 女性特有の足腰が冷える、更年期症状にも効果があります。
加味逍遥散(かみしょうようさん) いらいら、ほてりなどの症状改を改善させます。
比較的高度なものに対してでないと効きにくいですが、防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)が有効です。